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第一夜演目一覧

踏んじゃった

Rさん達がまだ学生だった頃の夏休みに体験した話である.

Rさんと友人2人が,夏休みで帰省している友人Kさんの家に泊まりにいった.

数日目の夜,怪い話をしようということで,順繰りに知っている話を語っていった.しばらく盛り上がったところで,

「それじゃ,肝試しに行こう」

と誰かが言い出した.地元の人であるKさんが,

「ちょっと怖いところならあるよ」

というので,そこまで車で出かけることにした.0時は回っていたという.

車で15分程走って,Kさんが案内してくれたところはトンネルだった.廃線となった線路をくぐるような形である.林の中の道で,人もほとんど通らないらしい.街灯も切れており,周囲は真っ暗だった.

「ここは地元の人も余り来ないんだよね.あっちに広い道路ができちゃったし,見通し悪くてよく事故も起きてたみたい,あと,出るらしいっていうんで,嫌われたみたいなのよ」

Kさんはハンドルから手を離すと,だらりと手を前に下げてそう言った.そして,

「通ってみる?」

と他の3人に尋ねた.助手席のRさんが,

「一応車だしさ,大丈夫だよきっと」

と答えた.他の2人もうなずいた.Kさんは

「じゃ,通ってみよう」

といってアクセルを踏んだ.下り坂は思っていたよりも急で,途中の溝で車ががくんがくんと揺れた.その時に,

「ああっ」

Kさんが悲鳴を上げて視線を左右に振った.助手席にいたRさんも外を見た.

踏んだのは,溝ではなかった.そのトンネルには,死体がずらりと置かれていた.

Kさんは真っ青になりながらスピードを上げて,そのトンネルを抜けた.

コンビニで車を止めると,Kさんは泣き出し,

「仏様踏んじゃった……」

と繰り返した.Rさんはどうしていいか分からなかったという.

Kさんの家までは後部座席に座っていた友人が運転した.彼女は何も見ていなかったが,運転席と助手席の二人から異様な気配を感じたので,何かあったのだとわかったという.

最後に,二度とあの道は通りたくないとRさんは言った.

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